取材メモ2
フランス ティーニュからのレポート
12月。いよいよシーズン到来。聖火がイタリア国内に入り、トリノの街も、世界からのアスリートを迎える準備の最終段階に入ったころ私はイタリアへ渡り、数日間の五輪事前取材のあとに、モーグルW杯の今季開幕戦を取材するため、フランスアルプスの山間の村ティーニュへ行きました。この大会は、里谷選手にとっては単なる今季初戦ではありません。五輪代表を勝ち取るための重要な大会になります。いえ、なるはずでした。
大会数日前、まだトリノ市内にいた私に「里谷負傷」の第一報が届きました。カナダで雪上練習中に転倒し、そのまま斜面を滑落。身体の左脇のあたりからコース脇の木の幹に衝突し、その衝撃でろく軟骨を痛めたということでした。その後極力安静にし、痛み止めの薬を服用しているので、薬が効いているときはやや痛みが和らいでいるそうでした。通常の生活に大きな支障を来たすほどではないものの、ジャンプをすることはもちろん、スキーで滑ることも難しく、大会欠場は免れない状況だったようです。ここで無理は禁物。それより、この後五輪代表決定までに残された2回のいずれかのレースで、代表に選ばれるために、自分のポテンシャルを評価してもらわなくてはなりません。彼女は、約1週間後にドイツで予定されているW杯第2戦の出場の可能性を残しつつ、世界の選手たちがどんな滑りをするのか見極めることなどを目的として、出場はしないものの、大会開催地ティーニュに移動しました。
ティーニュはW杯の開催地としては馴染みの場所。トリノ市からは、夏場なら車で3時間半程度の距離ですが、雪の峠越えがあるので、冬場はもう少しかかります(実際私たちも移動に少々苦労しました。詳しくは【アナウンスマガジン】で)。ティーニュのスキー場の中心部は標高2000mを越え、高い木が少なく広々とした山肌の一部に、約250メートルの大会コースが設置されています。私が現地に着いたのは大会前日の朝9時半頃でした。モーグルコースとその周辺には、世界各国からトップ選手たちが集結していました。里谷選手はその中に混じって、各選手が練習する様子をコーチと一緒に見ていました。この日は痛みがいくらか収まっていた彼女は、コース内に入って感触を確かめながら「7o(セブンオー:前回リポート参照)を跳ぶ選手が随分増えましたね・・・。」と感想を話しました。里谷選手自身が練習中の大技は、現在発展途上ですが、今季から本格的に3Dを採り入れた多くの選手たちのエアーも完璧な域には達していないと映ったのかもしれません。難しい3Dを跳ぶことで、スキーが慎重になりすぎたり、着地後は反対に粗くなったりしているように感じたようでした。
里谷選手がが取り組んでいるのは「バックフル」。前回も説明しましたが、身体を伸ばしたまま後方に1回転しながら1回ひねるという難しい技です。では、「7o」と「バックフル」はどちらが難しいのでしょう。女子のジャッジの基準点を比較すると、多少「7o」が上回ります。つまり、難易度は「7o」の方がやや高めに評価されているのです。しかし、かつてフリースタイル・エアリアルの代表選手だったある男性コーチは、「実際はバックフルの方が難しいかもしれない」と自分の経験を振り返っていました。個人差もあるので、難易度は単純には比較できないようですが、そんな大技が今、どの程度出来上がっているのか・・・。一方、スキー技術において、里谷選手は抜群に巧いという評価をよく耳にします。
モーグルは採点を含む競技です。よって、五輪代表選考対象のこの大会でも、スキー技術(ターン)さえしっかり出来れば、完成度が充分高くない高難度の技「バックフル」を封印しても、代表選考に充分説得力のある総合得点が出ていたはずでした。そこで彼女は、「バックフル」が"完成"するまでは"安全性"を考慮して「フロントフリップ」という、幾分容易なエアーで出場するつもりでした。ただ、どちらにしても縦方向の回転を含むエアーは、着地で転倒をするリスクは小さくありません。練習期間の短い里谷選手の場合、ここが最も気になるところです。同じ転倒でも派手な転倒は故障の引き金にもなります。今後は、確実性を高めることが一にも二にも重要になってくるでしょう。
さて、午前中はコースを視察していた里谷選手、午後は今後の練習へ向けての準備を行いました。室内で行うイメージトレーニングの準備です。先ずスティーブコーチがビデオカメラでコースを撮影します。その映像をパソコンに取り込んで編集し、効果音をつけます。これで、ティーニュの大会コースを使った、イメージトレーニング用ビデオの出来上がり!(この作業をほんの数時間でやってしまうスティーブの素早さもまた素晴らしい!) で、実際に見せてもらうと・・・、これがまた本当にビックリ。大会での滑りを疑似体験できる感じなのです。効果音のお陰で、映像に吸い込まれそうになりながら、コースを「ダンダン」と下っていく感じ・・・。これを入り口にして、イメージトレーニングをするそうです。最終的には目を閉じて、コースをイメージしながら行うこの練習は、集中力を要するので非常に疲れるのだとスティーブは話してくれました。
ところでこの大会は、既に五輪内定をもらっている上村愛子選手も出場予定でした。この日彼女は翌日のレースに向け練習をしていたのですが、第2エアーを終えた後のターンで転倒。おしりのあたりを強く打ってしまったのです。骨などに問題はないものの、痛みがあるため翌日の大会は欠場すると話す上村選手・・・。なんとなんと、彼女まで欠場とは・・・。上村選手は、前述のように7oに以前から取り組み、特に昨季は、何度失敗しても大会で7oをチャレンジし続け、W杯最終戦でついに成功し、優勝。五輪内定も勝ち取ったのでした。それだけに注目度の高かった五輪シーズン緒戦。しかし、里谷選手と上村選手という日本のツートップの欠場でちょっぴり寂しくなりました。二人が少しでも早く全快し、五輪でベストパフォーマンスができるよう、心から願って止みません。
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奥寺 健 誕生日:1967年8月19日 出身地:東京都 出身大学:電気通信大学大学院 血液型:A型 趣味:楽器をみんなで弾いて遊ぶこと、スキー&スピードスケート、 迷子のような旅 |